狂愛の果て

行き場を失った感情の掃き溜め

そのトレンドに用はない 【Ninth Pencil】

Ninth Pencil トレイラー - ナツノヒ

 

 本記事はナツ様主催の企画”Ninth Pencil”参加記事です。11人の文字書きがランダムに割り当てられた『Ninth Peel』の楽曲について綴ります。是非とも他の参加者の方の記事もお読みになってください。素敵な企画に参加することができて光栄でした!ルーレットを回している時のナツ様は、それはそれは楽しそうに笑っておられました。振り回される側にもなってほしい。以下、本編。

 

 

 

 

 

はじめに

 『Ninth Peel』とは、ロックバンドUNISON SQUARE GARDENが2023年に発売した彼らの9枚目のアルバムである。

 前作の『Patrick Vegee』は、各曲がスムーズにつながるような構成になっていて、面白い。今までにないアルバム構成だったため、目新しさもあった。特にスローカーブは打てない(that made me crazy)〜Catch up,latency、夏影テールライト〜Phantom Jokeの部分は、シングル曲という変更しようのないピースとアルバム曲をよく繋げたなと唸ってしまう。世界はファンシー〜春が来てぼくらの流れも好き。というか、全部好き。

 それに比べて、『Ninth Peel』はいわゆる普通のアルバムだ。公式サイトの文言通りの、「普通にやってるロックバンドの、普通の最新アルバム」だ。ただ、クセの強いバンドの普通が、いわゆる普通にあたるのだろうか。それはまた別問題なので、今回はとりあげない。

 

 「普通」という言葉は、不思議だ。プラスにもマイナスにもなる。そもそも「普通」とは何だろう。辞書によると、「特に変わっていないこと。ごくありふれたものであること。それがあたりまえであること。また、そのさま。」だそうだ。つまり『Ninth Peel』は、UNISON SQUARE GARDENの当たり前が詰まった一枚ということになる。20周年を目前にしたタイミングで気を衒うことなく当たり前を出せるUNISON SQUARE GARDENのハートの強さたるや恐ろしい。

 

 そんな通常営業のUNISON SQUARE GARDENが出した『Ninth Peel』の中で今回スポットを当てるのは、アンチ・トレンディ・クラブだ。『Ninth Peel』の中で一番好きな曲なので担当できてとても嬉しい。UNISON SQUARE GARDENが好きな人全員大好きでしょこの曲。ファンが多いであろうこの曲を担当するのは正直不安だが、今回も好き勝手に書きます。それではいってみよ~。

 

 

アンチ・トレンディ・クラブにつまるUNISON SQUARE GARDENらしさ

 各アルバムに一曲はあるUNISON SQUARE GARDENらしさ全開の曲。『Ninth Peel』でいうところのそれがアンチ・トレンディ・クラブだ。『Patrick Vegee』ではスロウカーブは打てない(that made me crazy)、『MODE MOOD MODE』だとMIDNIGHT JUNGLE、『CIDER ROAD』だとシャンデリア・ワルツです。異論は認めません。もちろん、どの曲もUNISON SQUARE GARDENが作っているのだからUNISON SQUARE GARDENらしさはそりゃあるのだが、アンチ・トレンディ・クラブのUNISON SQUARE GARDEN成分の含まれ方は異常である。供給過多すぎる。

 

 なぜアンチ・トレンディ・クラブから致死量のUNISON SQUARE GARDENを感じるのかというと、曲調と歌詞の両方にUNISON SQUARE GARDEN成分が含まれているからだと考えている。成分が多すぎてタイトルから溢れ出ているもん。曲名見ただけでこれ絶対好きなやつじゃんとなっちゃったもんな。それではどこがUNISON SQUARE GARDENらしさなのか、詳しく見ていこう。

 

 まず曲調だが、サビ前で少し静かになったり音抜きがあったりと緩急があり、聞いていて楽しい。ノリの良さもありつつもどこかジャズっぽい雰囲気もあり、オシャレでかっこいい。ユニゾンらしい遊び心のあるロックナンバーだ。CAPACITY超えるが同じ系統の曲だろうか。親戚ぐらいの関係性だと思っている。雰囲気似てね?トッポとピコラみたいな感じで。あと信じられないぐらいライブ映えするので、これからもライブで演奏し続けて欲しい。

 

 

 そして歌詞だが、UNISON SQUARE GARDENらしさ大爆発である。前回の企画記事で述べたように、UNISON SQUARE GARDENの歌詞は一聴じゃ読み解けないものばかりだ。この曲も例に漏れず一聴じゃ読み解けなかった。エニグマってなに?「つよくてやさしい僕たちはお気に召さないですか」って言った!?という感想しか抱けませんでした。だが、何度も何度も聴くうちになんとなく田淵智也の言いたいことは分かった気がする。特に気になる部分をピックアップして読み解いていこう。

 

 歌詞そのものに入る前に気になることがある。この曲のタイトルはどこで区切れる?「アンチ・トレンディクラブ」?「アンチトレンディ・クラブ」?そもそも全部が独立した単語?何度も聴くうちに私は「アンチトレンディ・クラブ」だと思うようになったので、今後はこの解釈で進める。

 

 この曲はまずトレンドの定義をあげるところから始まる。

 

多数みんなが好き なものだけが正義

はずれものは廃棄 美しいこそがトレンディ

 

 みんなが好きなものだけが正義であって、物であろうが人であろうが世の中の感覚から外れてしまったものは受け入れられない。多くの人の好みにあった美しいものだけが、流行になるということか。心底残念だが、その通りだ。この世の無常を表したところで、歌詞は続く。

 

シラバスの言うとおり この世にコツあり

おさえれば順当に 幸せになれる本当に

 

本当に 本当に?そのスイッチ入れたら

君のことも 忘れちゃわないか?

助けに行くから そこを動かないで

 

 大学ではサークルに所属して先輩から情報を聞くとか上司とのカラオケで懐メロを歌うとかそういうことがいわゆるこの世のコツで、それをおさえて楽に生きることもトレンドの一つなのだろう。しかし、その状況に違和感を覚えて言葉にしてくれるのがUNISON SQUARE GARDENである。その感覚が本当に大好きだ。

 

 そして、UNISON SQUARE GARDENはトレンドに軽々しく同調するなと言い放つ。

 

一緒に居ようぜ

できるだけ短い時間 っていうエニグマ

景観はかなりいいんだけど

お気に召さないなら おととい来てくれ

Wow 扇動すんな しょうもないマガジン

Wow 星に頼んな シェアなんてレガシー

今が気持ちいいだけ それが諸行無双の極み

 

 てっきりサビの歌詞は「一緒に居ようぜできるだけ/短い時間」という文節で区切れると思っていた。一緒に居たくても時間が無いから居られないという矛盾した状況を描いており、その状況を端的に表すためにエニグマ=謎という単語を使っていると思っていたのだが、歌詞カードを見て違うのではないかと考えが変わった。「一緒に居ようぜ/できるだけ短い時間」で区切れているのではないだろうか。後半の文節が前半にかかっている。つまり、できるだけ短い時間一緒に居たいということになる。なんだその矛盾した文章。相変わらず訳が分からん。分からないなりに考えて至ったのは、「一緒に居ようぜできるだけ短い時間」という言葉はトレンドを表しているという答えだ。トレンドというのは本当にすぐに変わる。早く変わることがステータスだと思っている人間もいそうなぐらいすぐに変わる。それゆえのこの台詞なのである。つまり、この部分はあまりにも早く変わるトレンドって謎すぎん?という疑問の提示なのである。あくまでも私の中で。

 

 次の「景観はかなりいいんだけど お気に召さないなら おととい来てくれ」は、まさにUNISON SQUARE GARDENのトレンドに対する姿勢だろう。自分たちは良いと思っているが、トレンドを追い求めるお前達に刺さらないならば最初から来ないでくれといったところか。

 

 さらに、トレンドへの否定は続く。「扇動すんな しょうもないマガジン」は、文字通りトレンドを知らせる雑誌、ひいてはトレンドそのものに対する怒りか。というか、提言?「星に頼んな シェアなんてレガシー」も、世の中の動きに対する怒りだろう。星とはいわゆる☆のことで、Googleレビューや食べログなどの口コミサイトにおける他者からの評価を可視化したものではないだろうか。他者の口コミはあくまでも過去の業績であって、自分の目で確かめろということか。Wowは多分意味ない。ライブでなんか良い感じになる為の要素。

 

 そしてトレンドに対して散々Noを突きつけた後に、生き方の極致を提示してくる。所業無双とは田淵が生みだした造語だろう。語感から諸行無常を意識しているのは間違いない。諸行無常が「この世にあるものはすべて変化・消滅を繰り返す」といった意味に対し、諸行無双は単語から考えるに「この世のすべてのものの中で最も優れているもの」といったニュアンスだろうか。常に変化を繰り返す諸行無常なトレンドに対して、今自分が最も楽しい気持ちいいと思うことをする諸行無双こそが、最も良い生き方なのではないだろうか。もちろんモラルを守った上で。諸行無双という単語が実在しているのであれば、だれか教えてください。

 

 一通り気になった箇所を見たが、ここまでユニゾンらしい曲久しぶりだなというのが率直な感想。歌詞だけで見ると、Cheap Cheap EndrollやOwn Civilization(nano-mile met)が同じ系統だ。これは完全に兄弟です。ポッキーとプリッツです。君がもっと嫌いになっていく長男と差し出された手は噛みちぎる次男、おととい来てくれと言い放つ三男、やばいやつの集まりやん。

 だがこの歌詞の強気の姿勢と一聴じゃ読み解けない難しさのバランスがこの曲のUNISON SQUARE GARDENらしさを強めている。だいっっっっっすき。こういうスタンスが物好きを引きつけて放さないんだろう。

 

 

 

 

 アンチ・トレンディ・クラブがUNISON SQUARE GARDENらしさに溢れている曲だと存分に語った。しかし、先ほど散々言ったUNISON SQUARE GARDENらしさとは結局何なのだろう?

 

 ポップなメロディ、音数ギチギチで分かりづらい歌詞この二つが重要な構成要素であることは言うまでも無い。世界はファンシーが良い例だろう。

だが、アンチトレンディクラブでは、この二つに加えて、UNISON SQUARE GARDENが再三示してきた他人に流されるなという姿勢が色濃く表れている。ついてこれる人はついてきたらいい、自由にやればいいというUNISON SQUARE GARDENのライブに対するスタンスが曲にも強く表れている。その点が、UNISON SQUARE GARDENらしさを強めているのだ。

 

 

終わりに

 なんだか論文みたいな記事になってしまった。まるでUNISON SQUARE GARDENが世相にもの申しまくるバンドみたいな書き方になってしまったが、これはあくまでも私の解釈です。そもそも歌詞に意味なんて無いからね。

 好きを語ると語調が固くなってしまって嫌になる。というわけで、ここでテンションを調整したいと思います。

 

 イェーイアンチ・トレンディ・クラブが好き~!!!UNISON SQUARE GARDENが大好き~!!!!20周年おめでとう~!!!!!!!!!!

調整終わり

 

 

『Ninth Peel』1周年、UNISON SQUARE GARDEN結成20周年おめでとうございます。これからもそのスタンスを崩さずにロックバンドの普通をやる貴方たちをちょうど良い距離感で追いかけます。

 

 

4/11追記

Ninth Pencil - ナツノヒ

参加企画NinthPencilのまとめ記事が発表されました。ぜひご覧ください。