狂愛の果て

行き場を失った感情の掃き溜め

そして0へ戻る THE PINBALLS 15th Anniversary Oneman "Go Back to Zero” ライブレポート

 ついにこの日が来てしまった。11月24日。THE PINBALLS『Go Back to Zero』。彼らの活動休止前最後のライブである。突然の活動休止宣言から四か月と少し。数字にすると長いが、荒れた心を落ち着けるにはあまりにも短かった。

 何の心構えもできていないまま、一人、片道四時間もかかる鈍間な列車に乗って東京へと向かう。途中でそこ私の席ですけど?という表情でおばさんに睨まれたがビビりながら無視した。おばさんの勘違いだった。無駄にビビらせないでほしい。こっちは今から精神統一しとかないと持ちそうにないんだよ色々と。ここで消費できるMPなんて微塵もないんだわ。おばさんと隣同士で気まずくなっているうちに、東京駅に着いた。

 

 

 序盤から一波乱あったが無事に東京へと降り立った。それだけで御の字だろう。開演まで時間がかなりあったので、家族から頼まれたアホみたいな量のお土産を買ったり、フォロワーとバカ高いピザを食べたりして過ごした。11月も下旬だというのに暖かくて穏やかで、せっかくの厚着が無駄になってしまった。活動休止ライブがあるなんて信じられないくらいのどかな日だ。ただのメモリアルライブならどれだけよかっただろうなと思ってしまうほどに。

 

 

 開演の時間が刻一刻と迫る中、暮れていく夕日を眺めながら会場行きの電車に乗った。着いた頃には日はもうすっかり落ちていて、少し寒かった。会場のZepp DiverCity Tokyoが入っている建物は、ライブハウスがあるとは思えないほど現代的なショッピングモールだった。フードコートもあって、開場までの時間が潰せる。好立地すぎ。どっかのライブハウスは近くにセブンイレブンしかないからな。大違いですよ。Zepp Osaka Bayside君あなたのことですよ聞いてますか?

 

 

 一緒にバカ高ピザを食べたフォロワーとはフードコートで別れ、会場に向かった。ものすごいことになっている物販の待機列を尻目に入場。ライブハウスに入ること自体1年ぶりで少し涙が出た。ホールで見るバンドももちろん良い。というか、バンドはどこで見たって良い。だけどやっぱり、ライブハウスで見るバンドは格別なんだよ。ちょっと早く着いたし物販でなんか買おうかな〜とか思っていたがあの待機列を見ると、そんな気は失せた。あんなに人並ぶほどTHE PINBALLSのファンっているんだ普段どこにいるんだよと思いながら、ドリンクを交換。ドリンクホルダーのデザインがギターからヘッドホンに変わっていた。時の流れを感じる。

 

 

 会場の奥に行くと謎のフォトスポットがあった。写真を撮ってる人が割といて、例に漏れず私も一枚撮る。こんなもん用意するぐらいなら活動休止すんなよアホ。また、旧譜一枚買ったらポスタープレゼントというライブ会場あるある物販にも見事に引っかかり、『Number Seven』を購入。こんなもんなんぼあってもいいですからね。だが、ポスターが思っていたよりもデカくこれからライブ見る人とは思えない荷物になった。アホなんか?スタンディングだったら確実にポスター曲がってるぞ。でもポスター欲しかったし終演後はすぐに帰らないとだし。

 ポスターが飛び出た袋を片手についにフロアへ。Zeppのフロアに椅子が並べられている風景にはやはり違和感を覚えたが、ご時世だし仕方なし。自分の席を探す。D列だから前から4列だと思っていたが、機材の関係でC列始まりだった。要するに前から2列目だったのだ。・・・2列目!?!?!?!?発券した時から近すぎて死ぬかもと思っていたが、前から2列目は聞いていない。4列目の心算で来たのに2列目は心臓止まる。Zeppの2列目とか初めてでビビる。スタンディングでは到底来れない位置。おかしい。始まる前から脳がやられる。

 ステージは3メートルほど先にあり、垂れ幕が揺れている。近くね?D列のド下手側なので、垂れ幕の間からステージが見え隠れしていた。下手すぎて森下さんしか見えないんじゃないかと思うが、あの人たちはステージを動き回ってくれるからきっと大丈夫だろう。一回しか行ったことないけど。

 

 

 開演まで後30分。会場の席が埋まり出した。今日のライブはソールドアウトしたらしい。この広いZeppを埋め尽くすほどTHE PINBALLSを好きな人がいる。その事実だけでもう涙が出てくる。こんなにファンがいるのに私の周りには1人もいないのはなんでなんですかね。

 この日が来ることが心の底から嫌だったし、楽しみだった。今日のライブが終わったらTHE PINBALLSは活動休止してしまう。してほしくない。だから、今日が来なければよかった。でも、それと同じくらい彼らのライブが見れることが楽しみだった。一回しか見たことないけど、その一回で彼らのかっこよさは十分に伝わってきたから。何度でも見たいと思うのは自然なことだった。でも、今日を境に見れなくなるんだよな。やっぱり嫌な気持ちの方が勝ってしまう。今まで見てきたどのライブでも抱いたことのない両立しえない感情を抱きながら開演を待った。

 

 

 開演時刻の7時を少し回った頃。会場の照明が落とされ、BGMが小さくなっていく。ついに始まってしまう。薄暗くなった会場に聞こえてきたのはいつもの出囃子、『Have Love Will Travel』ではなかった。条件反射で立ってしまった観客たちが、一旦腰を下ろす。ステージに降ろされている幕に映像が映し出されていた。状況が理解できないままそれを見る。それは、彼らがこれまでやってきた全ライブがまとめられたものだった。ライブをやった時期のアー写と共に。『オブリビオン』にのせて。私にはそれがTHE PINBALLSのエンドロールにしか見えなかった。誰だよこの演出考えたやつふざけてんのか?人の心とかないんか?本当に終わりみたいじゃないか。活動休止じゃないのかよ。解散に見えるだろ。やめろよ。今すぐ。こんなとこでオブリビオン流されたら、オブリビオンは今日のこのためだけに作られた曲なんじゃないかと思っちゃうだろ。THE PINBALLSの1つの作品じゃなくて、ただエンドロールを彩るためだけだったのか?だったらいくらなんでも許せない。呆然としている間も、今までのライブ日程が次々と流れていく。途切れることなく流れ続ける。彼らはこんなにもたくさんのライブをやってきたんだな。ライブが開催できるってことは、それだけたくさんの人に求められていたってことだよな。私はそのうち1つしか行けなかったけど。怒り、悲しみ、感嘆、様々な感情が一気に駆け巡って、涙が滲んだ。

 

 

 曲の終わりとともに、「Go Back to Zero」と映し出される。少しの静寂の後、何度も聴いた大好きなイントロが鼓膜を打つ。幕に4人の影が映し出されている。黙って座っていた観客たちが一斉に立ち上がった。ついに、ついに始まってしまう。絶妙なタイミングで幕が落とされ、4人があらわになった。それと同時に一斉に光る照明。白い。あまりにも白くて、眩しい。照明だけでなく、まるで彼ら自身から光が湧き上がっているかのような明るく希望に溢れた光だった。1曲目片目のウィリー、私が初めて聴いたTHE PINBALLSの曲。始めるのならこの曲しかないだろうな。最初の演出から滲んでいた涙は粒となって零れ落ちた。

 

 感動、思い出が次から次へと甦って胸がいっぱいになって涙が止まらなかった。初っ端からこんなに泣いていて大丈夫かと思ったが出てくるものは仕方ないんだもの。止めようと思って止められるものでもないし。目の前では、森下兄貴が茶目っ気たっぷりにベースを弾いていたし、皇帝のギターは今日もかっこいい。石原さんのドラムも軽快で、古川さんの歌声はどこまでも届くようだ。あまりにもいつも通りな片目のウィリーだった。でも、始まってしまった。後にはもう戻れない。

 

 

古川「始めようぜ!!!!」

 

 いつものようにそう叫んで、始まったのはママに捧ぐ。初めて行ったライブでもやっていたなあと思い出し、また泣いた。少し走り気味な演奏もイマイチなんて言ってるか分からない英語の歌詞も全てカッコいい。THE PINBALLSの曲は本当にライブ映えするなとただただ圧倒される。

 

 

 あっという間に過ぎ去って、次に演奏されたのはヤードセールの元老。入りのドラムとギターの音が心地よい。まさか今日聴けるとは思っていなかった1曲だったので、嬉しくて思わず飛び跳ねてしまった。相変わらず泣いていたけれど。感情と行動の不一致。3曲目ともなれば涙も枯れるだろうとたかを括っていたが、まだまだ溢れてくる。もう何に対して涙を流しているのか分からない。嬉しさと悲しみがぐちゃぐちゃになっている。感情を声に出せない分涙となって全部出てきているのだろうか。初っ端から泣きすぎて多分隣の人もドン引きしてたと思う。自分でも泣きすぎだろって若干引いている。

 

 音源を聴くたびに最後の掛け合いの部分は古川さんと森下さんで掛け合うのだろうな森下兄貴は叫ぶんだろうなと妄想していたが、その通りの光景が見れて非常に満足。最後のDone!も森下兄貴が絶叫していて最高だな。 

 

 

 余韻を味わう暇もなく、怪しげなギターリフが奏でられ、観客は興奮の坩堝に誘われる。声が出せるのならば絶叫に包まれていただろう。アダムの肋骨。『時の肋骨』のリード曲。

 

森下「今のための今を最高にかっこよく生きようぜ!」

 

兄貴がそう吠え、観客のボルテージが一気に上がったのが分かった。ライブ音源でも似たようなことを言っていた気がするので、この曲のテーマは今のための今なのかもしれない。音源の時と今とでは重みが違ってくるが。違いすぎるんだよなあとぼんやり思いながら音に身を任せる。しかし、MVを見た時はこんなにライブ映えする曲だとは思わなかったな。初めて行ったライブでもこの曲をやってくれたし、あの時も森下兄貴なんか吠えてたっけと感傷に浸っていたらまた涙が出てきた。

 

 

 アウトロをかっこよく決めた後、ドラムの音をバックに古川さんが話し出した。

 

古川「最高ですどうもありがとう。今日、まあ知っての通り最後のライブです。最後のライブになってしまいました。だけどいつでも、ライブをする時に、これが最後じゃないと思って覚悟しないでステージに上がったことはなかったです。いつだって最後でいいと最高のライブをしたいと思ってやってきました。皆さんもそうでしょう!?だから、俺たちは何も変わりません今日は最高のライブをしますよろしくお願いします!!」

 

ときおり声を詰まらせながら古川さんが叫ぶ。この数曲で既に最高のライブになることは分かりきっている。きっとTHE PINBALLS史上最も良いライブになるであろうことも。本人のお墨付きなら尚更だ。ドラムの音にギターの唸るような音、ベースの力強いフレーズが重なって一つの束になっていく。テンションが限界を迎えたその瞬間、音が消え静寂が落ちる。皇帝がお立ち台に降り立つ音さえも聞こえてくるほどの静寂。何が来るんだろう?crackか?そう考えている頭を撃ち抜いたのは、

 

 

 荒々しさのなかに切なさを交えたギターの音。皇帝が青と白の光に照らされながら、ギターをかき鳴らす。その一音一音全てに魂をこめるように。その姿はあまりにも美しくて、時間が止まっているかのように思えた。脳天を直接揺さぶってくる力強い音、ICE AGE。大好きなこの曲をまさか聴けるだなんて。『ZERO TAKES』に入っているから順当と言えば順当なんだが本当に嬉しい。『ZERO TAKES』のトレーラーをICE AGEからはじめようって提案した人とは絶対うまい酒が飲める。

 

 あまりの疾走感に置いていかれそうになりながら見ていると、2番で下手に皇帝がおいでになった。そこを変われと言わんばかりに森下兄貴に詰め寄る。顔を見合わせニヤリとしてから、兄貴は上手へ、皇帝は下手の端の方へ。いいぞもっとやれ。ギターとベースがバチバチにやりあうことでしか得られない栄養素は確実に存在します。

 

 間近で見た皇帝はとても華奢で、その体からどうやってあんなに芯の太い力強いギターの音色が奏でられるのだろうと心底不思議に思う。あの瞬間、ICE AGEのイントロを奏でている貴方よりかっこいい存在は他にはいなかった。真正のギタリスト。THE PINBALLSでギターを弾いてくれてありがとうと重めの念を飛ばした。しかし、びっくりするほど目合わないな。なんで?こんなに近いのに一回も目合わないんだが?私のことなんてアウトオブ眼中ってこと・・・!?

 

 

 雪原に吹く風のような勢いでICE AGEが終わった。かっこよさに放心状態になっているのも束の間、次の曲がなだれ込んでくる。毎朝聴き慣れたフレーズ。これを目覚ましにしてから起きられなかった日はないよ。ニードルノット。リズムに合わせて飛び跳ねる。初めて聴いた時はあまり刺さらなかったのだが、聴けば聴くほど良さに磨きがかかる不思議な曲だと思っている。革ジャンみたいな。革ジャン持ってないけど。というか、イントロのリードギター古川さんが弾いているのか。リードギターをボーカルが弾くイメージがなかったので、少し驚いてしまった。先入観というものはよくない。古川さんのギターに皇帝のギターが合わさる瞬間に合わせて扉をぶち蹴る妄想をよくするんですけど、みなさんやってたりしません?めちゃくちゃ楽しいですよ。扉じゃなくて嫌いなやつの顔面とかでも良いです。

 

 赤い照明に照らされたメンバーからは内なる攻撃性が垣間見えて、動いていないと仕留められるんじゃないかと錯覚してしまう。飛んだり手を上げたり、何かしらの行動を起こさないと曲そのものが終わってしまうような気がする。まだ序盤だというのに、このライブが終わることへの恐怖心を若干抱きながら飛び続けた。

 

 

 限界まで伸ばしたアウトロをシンバルの音が破る。それとともに始まったのはcrack。思い出の曲。end of the daysツアーで見た曲たちにはどうしても思い入れが強くなってしまう。唯一行けたライブなので。あの時は照明がすっごいチカチカしててこれポリゴンショックでも起きるんじゃないのかなあメンバーは大丈夫なのか?とか色々考えてしまったことを覚えている。そんなことを思い出しているとまた涙が出た。一つ思い出すたびに涙が出てくるもんだから本当にどうしようもない。涙が出る関連のワードも尽きたので、そろそろ涙腺枯れてほしい。

 

 この曲の魅力といったらなんと言っても古川さんと森下兄貴のダブルボーカル。ライブでしか味わえない醍醐味。古川さんの伸びやかな歌声に重ねるように、森下兄貴のほぼ絶叫に近い歌声が響く。これが本当のcrackなんじゃないかと思ってしまうぐらいに、かっこいい。それが今日でもう見れなくなってしまうなんて、そんな悲しいことがあっていいのか?

 

 

 最後のセッションを何度もやり、そのまま次の曲が始まった。そろそろ休憩するもんだと思っていたから驚いた。止まることを忘れてしまったのか?この曲のかっこよさが前へ前へと押しやるのか?マーダーピールズ。millions of memoriesツアーに行けなかったので『millions of oblivion』の曲をやられると無条件に上がってしまう。どうしてmillions of memoriesに行けなかったんですか?コロナクソ野郎のせいです。神々の豚も放浪のマチルダも赤い羊よ眠れも惑星の子供たちも全部全部聴きたかったよ。音を全身で浴びたかった。もっとTHE PINBALLSのライブに行きたかった。

 

 時に目を閉じながら気持ちよさそうに歌う古川さん。サビに入った瞬間目をガッと開く。その目に吸い寄せられる。こちらの心臓を握られているかのように目が離せなくなる。この場の全員を惹きつけるオーラのようなものが彼の両目からほとばしっている。ライスシャワーじゃん。古川さんは元々ステージとそれ以外の時のギャップがすごい人だとは思っていたが、ここまでだっただろうか?いつもよりも顔つきが変わって凄みが増している気がする。これがカリスマってやつなのか?

 

 

 アウトロをセッションのようにかき鳴らしフィニッシュ。徐々に絞られていく照明。ようやく休息か?と思った瞬間には奏でられているギターの音。耳に残るポップなギターリフから始まる一曲、SLOW TRAIN。『ZERO TAKES』の中で一番化けた曲だと個人的には思っている。リテイクで追加されたイントロが耳に残って気持ちいい。私も今日貴方たちに会うためにノロマな列車(新幹線各駅停車片道4時間)に乗ってここまでやってきました。今日を無事に迎えられたことに安堵しています。道中色々ありましたけど。というか、ここまでほぼノンストップだけど体力持つのか?某3ピースロックバンドのライブ見てんのかと思ったわ。

 

 マーダーピールズとは打って変わって非常に柔らかい表情で歌う古川さん。時折はにかみながら歌っている姿を見て、ああこの人は今ここで歌っていることが何よりも楽しいんだと伝わってくる。泣いた。今日だけで一生分の涙流してるわ。貴方が楽しんでいることほど嬉しいことはない。演者の楽しさは観客にも伝わってくるから。

 

 

 アウトロ最後でありがとうと古川さんが言い、締めと同時にサンキューの一言。ありがとうを2回も言う古川さん、推せる。会場を柔らかい拍手の音が包んだ。とここでようやくMC。

 

古川「改めまして皆さんようこそいらっしゃいましたどうも〜。そっかまだね、声出せないんだっけ。んーでもすごいなんか、とっても気持ちよくて。ライブ自体も久しぶりですからね。あのー活動休止最後のライブということで。なんか、完全にハッピーハッピーっていうふうに言えないのが本当にごめんなんだけど、でも本当にライブが気持ちいい。みんなの、なんか人がいる感じがすごくあたたかいです。どうもありがとうございます。」

 

 時折声を震わせながら語る古川さんを見て、乾いていた涙がまた溢れてくる。確かにステージ上で歌う彼はいつも以上にのびのびとこのライブを最大限味わいながら歌っているように見えた。その印象は間違いではなかった。古川さんのMCに口を挟むことなく静かに頷きながら聞いている3人。その姿がとてもたのもしく嬉しくて、それと同時にもうこの4人が集まることはしばらくないという事実が急に襲ってきて感情が分からなくなった。今日のライブを見れたことはとてつもなく嬉しいが、それは同時にTHE PINBALLSを見れるのは今日で最後ということでもあって。ライブの間は曲が持つ力やメンバーのパフォーマンスに気を取られて、今日で終わってしまうことをほとんど忘れていた。だが、MCになると現実に引き戻されてしまう。今は嬉しさよりも寂しさが勝っていた。そして何より、彼に活動休止と言わせてしまったことが許せなかった。

 

「あのー最後のライブですから、悲しい思いをさせたこともあると思います。んーだけどなんて言うかな、今この歌っている時に本当に心の底からあー気持ちいいな、みんなの顔が見えて幸せだなって思えてさ、リラックスできてさ、本当に歌うことが気持ちよくて。でも多分俺って最初のライブの時とか始まったばかりのライブの時とかやってやるぞ!って気持ちばっかりで、なんかなかなかね、気持ちよくなるまでいかなかった時もあるんですよね。かっこいい、世界一かっこよくなりたいって気持ちだけがいつもばーっといってていつも。その気持ちよく歌を歌って幸せに、こんなに幸せな場所をくれたのはいつも3人だと思いますので本当に感謝してます。どうもありがとうございます。すっごい気持ちいいこの拍手とか気持ちいい気持ちを味わって歌いたいと思います。なんか歌いながら本当にどんどんパワーが出てくるような気持ちになるんだよね。そこまで連れてきてくれたのはこの3人とそしてみんなだと思いますので、少しでも今日はみんなに気持ちいい感じを味わってもらえたらいいなと思います。最後までどうぞよろしくお願いします。」

 

 THE PINBALLSはかっこいいバンドだ。曲そのものもかっこいいし何より、愚直にロックンロールを追い求めるその姿勢がこの世の全ての何ものよりかっこいい。彼のかっこよくなりたいという気持ちは真っ直ぐに届いていた。そのかっこよさが古川さん1人では成し得なかったことも。古川さんがありがとうと言うたびに拍手が湧き上がるのを見て、ファンはバンドに似るんだなあと根拠もないことが頭に浮かんだ。

 

 

 あたたかさと寂しさでよく分からない気持ちになったままライブは続く。会場が黄色とオレンジのあたたかい光に包まれて始まったのは、DUSK。あのMCの後にこの曲を持ってくるのは反則でしかないだろ。絶対泣かせようと思ってこのセトリ組んだだろ。

 

 序盤からぶっ飛ばしすぎてガス欠寸前のテンションをここで落ち着けようと、静かに体を揺らしながら見る。end of the daysツアーの時もそうして見ていたなあ。あの時もステージが夕焼け色に照らされていて、とてもあたたかい気持ちになったっけ。最前だったのにメンバーみんな真っ直ぐ前しか見ずに歌っていたな。最前だったのに誰とも目が合わないとか信じられます?今もそうだ。真っ直ぐ前だけ見つめて心を込めて演奏してくれている。歌を歌っている。その真摯な姿勢に心底惚れ込んでいるんだよな。

 

 

 あたたかな光に照らされて演奏するメンバーに見惚れているうちにDUSKが終わる。今日の帰り道もこんな穏やかな気持ちで歩けたら良いな。歩く頃には朝になってるだろうけど。そんなくだらないことを考えていたら、

 

古川「ありがとう!sugar sweet!」

 

の掛け声とともに演奏が始まる。sugar sweet。恋焦がれていた一曲。『WIZARD 』初回盤についてきたライブ音源を聴いた時から虜だった。ずっと再録されることを望んでいた。『ZERO TAKES』に収録されて一番嬉しかった曲かもしれない。

 

 歌詞のロマンチックさを盛り立てるように照明が光る。青と紫の照明は曲想にぴったり。これは恋の歌なのに照明が赤やピンクじゃないの、本当に解釈一致です。何せ青色に染めたポストの前で手紙待ってるんだからな。家建てたらポストの色は絶対青色にします。

 

 音源の時から思っていたけど、本当に伸びやかな歌声。きっとライブでは目を閉じて歌っているんだろうなと想像していたが、本当にそう歌っていた。見ているこっちが気分が良くなる歌い方をするよな本当に。MCの歌うことが気持ちいいという言葉に嘘はなかった。

 

 この曲は恋焦がれる"待ち"のラブソングであり、歌詞はかなり女々しい。しかし、それに反比例するかのようにギターの音はロックだし、ベースもゴリゴリに効いているし、ドラムのアクセントも強い。何より歌い方が完全にロックンロール。こんなかっこいいラブソング他にあるのか?あるなら教えてくれよ。

 

 

 ありがとうとかっこよく呟いて、ドラムのカウントが鳴り響く。カウントに合わせてセッションが始まった。ピンズもセッションするんだ。特にこんなお洒落なセッションをするなんて意外だな。一回しかライブ行ったことないから何も言えないんだけど、普段はもっとロックンロールなセッションをしているイメージがある。

 

 しかしこのセッションかっこいいな。これから何の曲が始まるか全く分からんけどこのセッション大好きだわ。初めて聴いた気がしない。セッションって大体音源にないよな?何でだ?興奮で回らない頭を必死に動かす。なんだこの曲は。セッションが終わり古川さんが口を開く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その時、全てに気付いた。

 

 

 

 

 

 この曲は。この曲は。私が世界で一番好きなあの曲じゃないか。ライブで聴くことを切望していたあの曲。なぜか自分が行かなかった日に限って演奏されることが多いあの曲。end of the daysツアーでも結構な量やっていたのになぜか大阪公演ではやってくれなかったあの曲。これさえ聴ければこの世に未練はないんじゃないかと思っているぐらい大好きなあの曲が今目の前で演奏されている。どうしてもっとはやく気づかなかったんだろう。沈んだ塔だ。

 

 

 

 

 沈んだ塔が演奏されている。沈んだ塔だ。沈んだ塔。沈んだ塔だよ。涙が次から次へと溢れ出てきて止まらない。涙でステージがまともに見えない。信じられない。急に号泣しだしたから横の人がビビっている。ごめん横の人。でも止められない。涙で自分が沈んだ塔になってしまう。

 

 一度も生では聴けないと思っていた。それが、今ここで演奏されている。15周年ライブという記念すべき公演で演奏されている。イントロをセッションと勘違いしていたの訳が分からなさすぎる。多分沈んだ塔が演奏されているという事実が受け入れられなくて、脳がバグってたんだろうな。開演前あれだけ沈んだ塔やってくれと願っていたくせに、いざやられると困る。嬉しいよりも信じられないが先行してしまう。みなさん、ライブで大好きな曲をやられたら脳が拒否反応を示すんですよ覚えておいてください。

 

 今目の前で沈んだ塔をやっているという事実に脳を破壊されたせいで、気づいたらサビに突入していた。何を言ってるのかわからんと思うが私にも分からん。イントロからここまでの記憶がほとんどない。

 ピンスポの光が六芒星を描いている。つまり、沈んだ塔=星=宇宙=永遠ってことですよね?沈んだ塔は永遠だが進んだ時は戻らないので、残りの沈んだ塔に全集中する。残りの沈んだ塔を五感全てで感じられるように。

 古川さんが目を閉じて祈るように歌う。その声には余分な力が入っておらず、優しさと悲しさが含まれているように聴こえる。歌い方が完全に解釈一致すぎる。音源の叫びのような歌声もいいが、この諦めのような優しい歌声もいい。ライブでは絶対こうしてほしかった。最高。やっぱ沈んだ塔最高だわ。ラスサビの森下兄貴のシャウトも最高に痺れる。沈んだ塔かっこいい。ここでライブ終わってももう良いわ。沈んだ塔沈んだ塔沈んだ塔沈んだ塔沈んだ塔

 

 

 この世の音楽の中で一番かっこいいアウトロが終わり、照明が暗転する。ここで暗転するのもまじで解釈一致すぎる。沈んだ塔の後は絶対暗転なんですよ。だって沈んだ塔が終わったんだから。あー沈んだ塔最高。今まで聴いてきた中で1番の沈んだ塔だった。音源ももちろん最高だけど、ライブの沈んだ塔も最高だった。脳破壊されたもの。もう人生に悔いないわ。あるとしたらTHE PINBALLS活動再開の日がわからないことだけだわ。生きててよかった。と一人人生のピークを迎えている中、ドラムのビートが響く。古川さんが手拍子を煽る。

 

古川「いや〜今日声出せないの残念だね!でもほんとに集まれてよかった。みんなも踊りたかったでしょこの期間!踊りたいよね!俺も踊りたい!今日久々にダンスしませんか皆さん!踊ろうぜベイベー!」

 

 頭上で両手を鳴らしながらいつもの笑顔で観客を煽る。何が演奏されるかなんて、ベースの音から分かりきっていた。だけど、あの音を聴いて盛り上がらないわけがなかった。ダンスパーティーの夜。沈んだ塔で全ての涙を流し尽くしたのか、それとも楽しそうなメンバーを見て泣いてばかりではいられないと思ったのか、きっと両方なんだろうけど、もう涙は流れなかった。ミラーボルに黄色、青のライトが合わさってディスコ会場のように染め上げられる。ディスコ行ったことないから分かんないけど。私のイメージではこの曲はもっとクラシカルなダンスパーティーの曲だと思っていた。思ってたよりも照明のクラブ感がすごくてちょっと笑ってしまった。Zeppのミラーボール使うのは9mmのTalking Machineの時だけだと思ってたよ。

 

 この曲はリズム隊の音がとんでもなく良い。気持ち良すぎる。脳に直接踊れと命令しているような音が出てる。特にサビ。この曲のサビで飛び跳ねない人は感覚が死んでる。もっとグルーブ感身につけて出直してこいよ。

 

 さっきの沈んだ塔とは打って変わってしっかりした歌声で歌う古川さん。音源よりもだいぶ巻き舌気味の歌声でこれぞライブの醍醐味だと感じる。特に誰もが運命をの所の巻き具合が半端なかった。だれぇもがってなってたよ。しかし、ロックバンドのボーカルの巻き舌ってどうしてあんなにかっこいいんだろうか。巻き舌できないので羨ましい。そもそもギターを弾きながら歌えないのだが。世の中のギタボ全員器用すぎないか?

 

 音に任せて踊っていたらあっという間にラスサビ。青と黄色だった照明が、赤に変わる。楽しいだけのダンスパーティーじゃなくて彼女を落とすという決意を感じられて良い。歌詞の意図を汲んだ照明さすがすぎる。

 最後までダンサブルに駆け抜け、アウトロへ。ハミングする古川さんはとても妖しくて、あんなのにダンスパーティー誘われたら誰だって行ってしまうだろ。行かない方がおかしい。

 

 

 ダンスパーティーの余韻に浸る暇もなく、ベースの音が耳を打つ。この規則的なベースの音色、まさかあの曲が?そのまさかだった。まぬけなドンキー。今日のライブでやってほしい曲第3位。1位は沈んだ塔で、2位はプリンキピア。この勢いでプリンキピアもやってくれ。

 

 入りからかなり走っていて思わず笑ってしまった。いくらライブとはいえこんなに走ることある?まあどれだけ走っていようが名曲は名曲。むしろライブ感がより鮮明に感じられて嬉しい。走ってしまうぐらい彼らが盛り上がっていることがわかるわけだし。


 この曲は森下兄貴のベースが素晴らしすぎる。入りもベースだし曲中もずっと跳ね回っていて、ドンキーの人生の楽しさを表しているようでとても好き。ニッコニコしながら見ていると、弾いている森下兄貴もすっごく良い表情をしていた。いつも余裕のある表情で、時にウィンクをしたり、MCで煽ったり、とにかく観客を少しでも盛り上げようとしてくれるエンターテイナー。そういうところが好きなんだよな。表情といえば、サビを歌う古川さんの表情もとてもとても良くて。泣きそうになりながら歌っていて。その表情に胸が締め付けられた。

 

 ずっと泣きそうな顔で歌っていた古川さんだったが、ラスサビに入ったところすごくいい笑顔に。泣いちまうよな。菩薩のような穏やかな表情で、ドンキーアイラブユーと歌ってくれた。ずっと穏やかに生きてくれ・・・。THE PINBALLS健やかに生きろ・・・。

 

 

古川「ありがとうー!!!!」

 アウトロに合わせながら満面の笑みで叫ぶ古川さん。その笑顔に何度救われてきたことか。

 

古川「いつでも好きな場所へ行こうぜ。way of 春風」

 

 その言葉と共に爽やかなロックチューンが始まる。夜桜を見ながらこの曲を聴くのが好きです。カラオケに行ったら絶対に歌う一曲。なんでJOYSOUNDにしか入ってないんだよ。みんなもカラオケで歌いまくって印税をまわそう。

 

 正直、今日のセトリに入るとは思っていなかった一曲だが、『dress up』にも収録されていたしメンバーのお気に入りソングなのかもしれない。明るく爽やかな、それこそ春風のような曲調とは裏腹に、歌詞は物悲しい。悲壮な決意を感じる歌詞。そもそもこの曲が出来た経緯が悲しいんだよな。それなのにこんなに爽やかで美しいロックに仕上げるなんて古川さんのセンスはどうなっているんだろう。気持ちよさそうに歌い上げるからを見ながら考える。

 

 この曲は春の曲だからか、後ろの照明がピンク色になっていて素敵。照明の力は大きい。あるとないとではかっこよさが変わってくる。さっきから曲想に合う照明ばかりで嬉しい限りだ。もっと彼らの曲を飾っておくれ。

 

 爽やかなギターの音色に酔いしれているうちに、2番に突入。ふと見ると皇帝が座りながらギター弾いていた。目を疑った。皇帝がお立ち台にお座りになられている・・・!?皇帝はクールな人だがライブでは歌いながらギターを弾いていたり、全身を使って演奏していたり、とにかく情熱に溢れている人なのだ。それがそんなかわいいことするなんて聞いてないし・・・。ten bearのMVかよ・・・。皇帝のかわいさに見惚れているうちにあっという間にラスサビ。THE PINBALLSの曲は本当に一瞬で終わる。怖い。時間の流れが狂ってるんじゃないかと思うほど。

 


 アウトロをセッションのように伸ばし、キメる。ありがとうと一言。暗転。

 

古川「もう本当に最高。本当に最高。ありがとうございます。あの15周年のライブでもあるので。なんだろうな。活動休止ってつかなければもっとみんなに本当に喜んでもらえたって思うんだけど。本当に言いたいのがさっきもね感謝の気持ちを言ったんですけど、楽しいんですよねライブやっぱり。」

 

 はにかみながら何度も感謝の言葉を伝える古川さん。誰よりも活動休止を悔やんでいるのは彼なのかも知れない。

 

古川「みんなのこと好きだし。だけど、そう、十五年間この3人を見てきて、あの、未来へ進むための決断ですので。あのサボる人たちじゃないんですよ。ほんとに。頑張ってるところをずっと見てきたわけですので。まあ、ね、俺が一番そうやってサボるタイプだけど、この3人はほんとにずっと頑張ってきました。それを言いたかったんですけど、だから、なんだろな、もう辞めたとか諦めたからバンドを辞めるわけではないです。新たに前に進んでいくためにみんなで出した答えなので。サボる奴は誰もいないとだけ伝えておきます。ありがとう。本当に、よくやってたと思う。本当に俺にめちゃめちゃなボーカルについてきたと思います。」

 

 途中で涙を拭っているように見えた。古川さんのことだから、もっと号泣するかと思っていたけど、覚悟を決めているのかすっきりとした顔をしていた。それが意外で、ここに来るまでにたくさん泣いてきたのかなと思ってしまう。辛い。

 

 彼に同情する一方で、無理矢理結論づけた疑問が湧き上がってくる。辞めたとか諦めたからじゃないなら、なんで活動休止してしまうの?前に進むための休止ってなに?はっきりいって意味わかんないんだけど。そもそもロックバンドを理解することなんて不可能なんだよ。分かったつもりでいてもそれは自分の解釈でしかない。ただ今は前向きな決断という彼らの言葉を信じるしかない。

 

「だから、そのこの最高の気持ちのステージでずーっと歌い続けたいという、朝まで歌を歌い続けたいという歌を歌いたいと思います。」

 

 そう言って始まったのは蜂の巣のバラード。すこし暗めのギターカッティングがエモさを掻き立てる。初めて聴いた時、あまりの美しさに聞き惚れてしまった一曲。どう考えもバラードとは言えないテンポなのにバラードと言い切るその精神が好き。

 

 THE PINBALLSのアルバム最後の曲は名曲という通説があるが、この曲も例に漏れず名曲。というかそもそも全部名曲なんだけど。曲に乗りながら、この曲は野外ライブ映えするだろうなとふと思った。特に夜の初め頃、まだ夕焼けが少し残っていて月が顔を出し始めた頃合いに演奏したらきっと素敵だなと思った。今からでも遅くないから野外ライブやってくれよ。どこへだって行くから。道行く人にTHE PINBALLSの音を聴かせたいんだよ。

 

 アウトロのギターを聴いていると切なくなってくる。切ないようなあたたかいようなそういう気持ちにさせてくれる曲がTHE PINBALLSには本当に多い。人の心の繊細な部分に触れる曲が、些細な感情の変化を取り上げた曲が多い。それを曲に落とし込めるその感性が本当に好きで憧れだ。

 


古川「ありがとう」

 

 古川さんがありがとうというたびに拍手が会場を埋め尽くす。照明が徐々に暗くなっていき、バックスクリーンに水晶が光っているような模様が映し出される。穏やかに始まったのは、樫の木島の夜の唄。

 

 ライブのバラード枠ではニューイングランドの王たちと鎬を削っている一曲。こちらの方が演奏されているか?そもそもニューイングランドはバラード枠なのか?とにかく結構ライブでやっているイメージがあるので、今日聴けて嬉しい。今日聴けた曲で嬉しくないものは無いのだけれど。

 

 照明が落とされた客席から見るステージはまるで星空のようだった。後ろのスクリーンには、光の柱のような模様が映し出されており、とても綺麗だ。上から照らしているのではなく、そこから光が湧き上がっているように見える。照明班のこだわりを感じる。

 

 ゆったりと音に身を預けているうちにラスサビへ。「だから今 夢を見ること 君は無駄だって思うかい」というフレーズになんど救われたか。夢を追い続けるロックバンドのための曲。その姿に憧れる人間はたくさんいるし、その姿に救われてきた人間もきっとたくさんいる。私は救われてきた。だから、これからも夢を見続けて欲しかったな。魂のこもった歌声を聴きながらそう考えていた。アウトロが終わる頃には、全員がこの曲のグルーヴに身を預けていて、一体となっていた。これが彼のいう気持ち良いってことなんだとわかった気がする。

 

 

古川「サンキュー!」

 

 とても穏やかな気持ちのまま静かに曲が終わった。余韻に浸っているのも束の間、シンバルのカウントが響く。始まったのは、20世紀のメロディ。THE PINBALLSの初めて買ったアルバムはさよなら20世紀だった。THE PINBALLSを好きになってすぐの頃、友達にこの曲を布教した。激しいロックが苦手そうな子だったけど、この曲なら聴いてくれそうに思ったから。友達はすぐに見てくれて、素敵なMVだねと褒めてくれた。自分のことのように嬉しかったの思いだした。

 

 これまでの日々を懐かしむように曲が流れる。歌割りを少しずらしながら歌う古川さんはライブ感に溢れていた。やはり生。ライブに勝るものは何もない。こういうアドリブ要素は音源だけでは決して味わえないものなのだ。だから、ライブは最高なんだよ。

 

 若干走っている演奏が観客の興奮を高める。満を持してサビへ。別れを惜しむように古川さんが歌い上げる。その歌声を支えるように森下兄貴がコーラス。とても心地良い。ロックバンドのハモりってなんでこんなに良いんだろうか。特に音源ではボーカルが一人で全部やってるけど、ライブになったらベースとかリードギターがやるハモりが大好きです。ボーカル以外の歌声を聴ける場所ってライブぐらいしかないしね。大きい音でコーラスが聴けるのもポイントが高い。

 

 そういえばTHE PINBALLSのライブは森下兄貴だけがハモりを担当しているよなと熱唱している兄貴を見ながら思う。皇帝はコーラスしないのだろうかと目をやると、柔らかい表情でギターを弾いていた。ICE AGEの時とは別人のように穏やかにギターを鳴らす皇帝も美しい。皇帝にはマイクの前に立って歌うんじゃなくて、ギターをかき鳴らしながら歩き回ってメロディを口ずさんでいてほしい。ギターを弾いている姿が一番似合うから。石原さんもコーラスしないのだろうか?というか、ギターやベースは休みあるけどドラムって基本ずっと叩き続けないといけないから相当しんどい楽器なのでは?冷静に考えたらドラム叩きながらコーラスするってよほど器用じゃないとできなくないか?

 

 

古川「オォーイェェェェ!!!!みんなの顔が見えるよありがとう!今日は思いっきり楽しもうね!!!!」

 

 興奮を引きずったまま古川さんが叫ぶ。その瞬間、私の心臓が大きく跳ね、一度止まったはずの涙が再び溢れ出した。そうなんだよ。私はこの人のこういうまっすぐなところが大好きで仕方ないんだよ。彼の言葉に嘘はない。少なくとも今の言葉には。ステージに立ったことがある人なら分かると思うのだが、本当にステージ上からは客席全部が見えるのだ。満席のフロアは圧巻の景色だろう。

 


 シンバルのカウントともに始まったのはTHE PINBALLS屈指のアッパーチューン、重さのない虹。イントロの特徴的なフレーズは古川さんが弾いていた。イントロたきゃが弾いてるんかいシリーズ2曲目。フレット移動がすごいことになっていて、職業バンドマンのレベルの高さを味わうことになった。そういえば古川さんも皇帝もギターチェンジやカポをすることなく演奏してるんだよな。チューニングを変えない、カポをつけないとなると演奏の難易度はかなり上がるのに2人とも難なく弾いている。さすが15年もバンドをやっている人は違うな。私も2人みたいなギターが弾きたい。

 

 思いっきり楽しもうねという言葉通り、全員が笑みをこぼしながら演奏している。心から今日のライブを楽しんでいることが伝わってくる。彼らが楽しんでいるのならこっちも楽しまないと失礼なんじゃないか?楽しんでないわけではないんだけど、むしろめちゃくちゃ楽しいんだけど、悲しみが先行してしまうもので。しかし、あんな姿見せられたら悲しんでいる暇なんてないと思い知らされた。

 

 ドラムの軽快なリズムに合わせて、ギターが暴れ、ベースが唸る。2番に差し掛かった頃、またもや皇帝が下手においでなさった。ICE AGEの時よりも、オラつきながら森下兄貴を煽る。皇帝は優雅でいてヤンキーみたいな空気感を纏っている不思議な人だ。なぜそんな相反する要素を同時に持てるのか。オタクの都合の良い妄想なんか?どんどん近づきながら煽り散らかす皇帝に対し、兄貴はニヤッと不敵な笑みを浮かべ煽り返す。おいおいおいおいおいおい、いい加減にしろよ死人が出るぞ本当に。さっきよりもレベルの高い煽り合戦してるんじゃないよ本当に。絶対何かしらの栄養素出てるわ。さっきよりも肌艶良くなった気がするもん。寿命10年は延びたな。まあ今日がラストライブという事実で寿命50年ぐらい縮んでるので結局マイナスです。

 

 ラスサビ前の恒例の観客煽りタイムにてなぜか満面の笑みで真ん中に集まるメンバー。真ん中に集まるフォーメーション大好きだから助かる。

 

古川「おっしゃぁぁ!!ジャンプすんぞいけるかぁ!!!!」

 そう叫ぶ古川さんをニッコニコしながら下から覗き込む森下兄貴。

 

古川「俺とどっちが高く飛べるか・・・勝負じゃぁ!!!!いけるぅ!?!?!?!?声は出せないけど飛んでいいぜ!上に行こうぜいけるか!?!?!?!?」

全力で上を指さす古川さん。正直ここまでのMCでめちゃくちゃまともなことを言っていて逆に不安だったけど、この意味わからん煽りでいつもの古川さんだと安心した。どっちが高く飛べるか勝負って何?意味わからんけど楽しそうだからOKです。古川節最高。

 

 抑え気味だったドラムの音が大きくなる。それに合わせて、イントロのフレーズが響く。ギターソロに入るタイミングで、両翼が同時にお立ち台に飛び乗った。いやほんとそういうとこやぞベースとギターよ。もうほぼ少年漫画じゃん。ジャンプじゃん。週刊少年ジャンプだよこれ。重さのない虹はジャンプだったんだわ。実際に飛んでるし?おもんな。

 

 全員がノリノリになったままフィニッシュ。まじで重さのない虹楽しすぎた。照明も曲に合わせて虹色になっていてとても綺麗だったし、メンバーも一番良い表情してたよ。今ので楽しめない人間は情操教育受け直せ。

 

 

 飛びすぎで乱れた呼吸を整えていると暗転。暗闇に響くギターの歪んだ音。ドラムの合図とともに照明が灯る。

 

森下「オーイェェェェ!!!!本気で全員で最高の0に向かって突き進むぞぉぉぉぉ!!!!」

 

兄貴の咆哮ののちにシンバルの4カウントが繰り出され、轟音が襲ってくる。皇帝がまるで異世界に誘うように両手を広げている。初めて聴いた時衝撃だった。全身を撃ち抜かれた。この曲が全てを変えた。蝙蝠と聖レオンハルト

 

 さっきまでのニッコニコキャッキャな雰囲気はどこへやら。全員目をぎらつかせながら、観客席を煽る。本当に同一人物達なんですか?週刊少年ジャンプはどこにいったの?オーラ全然違うんですけど??あまりの雰囲気の違いに鳥肌が立った。それと同時にラストスパートが始まったなと直感した。

 

 サビの突き抜ける高音を華麗にキメて古川さんは歌い続ける。この曲歌うの難しいんだよな。サビの最初の音が曲中の最高音になっているし、直前のフレーズが低音なのでいきなり高音に持っていくのも難しい。いつ歌っても惜しいことになるが、古川さんはさすがの安定感。全くブレない綺麗で芯の太い歌声。すごすぎる。あたりまえ体操

 

古川「ギィィタァァァァ!!!!」

 

 地獄の底から唸っているかのような掛け声で始まるギターソロ。髪を振り乱しながらギターを演奏する皇帝、愛でしかない。SLOW TRAINのようなポップな曲のソロもDUSKのようなバラードのソロもかっこいいけれど、やっぱりゴリゴリのロックチューンのギターソロが好きだ。皇帝の技術の高さが遺憾無く発揮されているし、何より皇帝が1番輝く瞬間だから。ギターを弾いている中屋さんは誰よりもかっこいい。

 

 アウトロまで一気に駆け抜けて終わってしまった。最後に両手を広げる森下兄貴は始まりの皇帝との対比か?良すぎる。ほんとギターとベースそういうことするよな。オタクの過大解釈なんか?

 

 

 蝙蝠と聖レオンハルトの勢いそのままに七転八倒のブルースが奏でられる。会場が真っ赤に染め上がった。この曲のMVめちゃくちゃかっこいいよな。一発撮りってのもかっこいいポイント。

 

 真っ赤な照明の下にいる4人は地獄の番犬のような猛々しさを放っていた。聞こえてくる一音一音が重い。前に行った時もこの曲やってたけど、その時はこんなに迫力はすごくなかったよな。ライブをすればするほど曲は良くなっていくというのは、真実なんだろう。

 

 サビに入り、熱かった会場がさらに熱くなる。こんなロックンロールを感じさせる曲、そうそうない。森下兄貴がステージの端ギリギリまで前に出てきて、ベースを唸らせる。そして、古川さんと一緒に歌い出した。マイクを通してないので分からないが、これは完全に歌っている。めちゃくちゃ歌っている。すっごい歌っている。表情筋すっごい動いてるもん。歌いながら楽器を弾くって相当難しいのによくやるな。しかも、ベースだとリズムが違うことも多いし余計すごい。

 

 そのままギターソロへ。のけぞりながらギターを弾く皇帝。その表情からは楽しさが滲み出ていた。さっきのギターソロもめちゃくちゃかっこよかったけど、七転八倒のギターソロもかっこいい。というか、どの曲でも皇帝のギターだったらかっこよくなってしまうんじゃないだろうか。音楽のジャンルが変わっても、かっこよさは変わらない気がする。いつまでも楽しくギターを弾いていてほしい。

 

 

 まだまだいくぞと言わんばかりに畳み掛けられたのは、ブロードウェイ。THE PINBALLSの世界観が惜しみなく出されている一曲。二分弱とTHE PINBALLSの中でもトップクラスに短い曲だけど、どの曲よりも濃い。大好き。

 

 ミラーボールが再び回っていた。ダンスパーティーだけの登場だと思っていたが、まさかブロードウェイでも光るとは。劇場を意識したのだろうか?天才の所業じゃん。天井からステージへ目を戻すと、ドラムの後ろで赤いライトが回っていた。かっこいい。どうやっているんだろう。今日のライブ照明はの熱の入り具合が段違いで、テンションが上がってしまう。

 

 ここがブロードウェイという言葉に合わせて、古川さんが右手を振り上げ、下ろす。言葉通り、ここが、ライブハウスが俺たちにとってのブロードウェイと言っているみたいに見えた。ホールで演奏しているTHE PINBALLSも見たかったけど、彼らには余計な飾りのないライブハウスが一番似合う。泥臭いロックバンドがライブハウスで這いずり回って演奏している姿がこの世で最も美しい。

 

 

 古川さんが石原さんの方を向いてタイミングを合わせる。シンバルに合わせて始まったのは、毒蛇のロックンロールだった。私の人生讃歌。いつ聴いてもかっこいい曲。MVもめちゃくちゃかっこいいよね。THE PINBALLSのMVにかっこよくないMVなんて無いんですけど。

 

 ライブも終盤のはずなのに、彼らの勢いが下がる気配は全くない。むしろ、序盤よりも激しさを増していた。特に古川さんの歌声は細くなることなく、どんどん大きく強くなっているように感じる。髪をかきあげながら前だけ向いて歌う姿は、かっこよかった。古川さんになりたいと叶うはず無い願いを抱いてしまうほどに。皇帝のかっこよさは、この世のものではない妖精とか神獣、あるいは芸術家が魂を削りながら作った至高の作品のような神々しさを感じさせるものだけど、古川さんのかっこよさは人間臭さを感じさせる。人間が到達できるかっこよさの頂点にいるけど、神や精霊のような人外の領域にはいない。泥の中をはいずりまわり、苦汁をなめて出来上がったかっこよさだから、親しみを感じやすいというか。ちょっと何言ってるか分からなくなってきたんですけど、とにかくかっこいい。

 

 間奏のダッタダララ~の部分を巻き舌強めに歌いあげる。かっけぇ。しかし、ライブだとどうしても前の3人に目が行きがちになってしまうのだが、後ろで優しく3人を見守りながらドラムを叩いている石原さんも相当かっこいい。前の3人はライブ中表情が変わりがちに見えるのだが、石原さんは常に涼しげな顔でドラムを叩いているイメージがある。黙っていたらものすごく落ち着いたできる大人という雰囲気を醸し出しているけど、話すと場をほっこりさせる天然ほっこりマスター。ステージに立っていないときのTHE PINBALLSの緩さは石原さんが作ってるんだよな。雰囲気で場を和ませることができるって才能だと思う。石原さんTHE PINBALLSにいてくれてありがとう。気づいたらジャケットを脱いでてびっくりしたけど。いつの間に脱いだの。

 

 

 アウトロを最高にロックに締めたと思いきや、またもやドラムのカウントが響く。まだまだ突っ走る気かよ?大丈夫なのか?ドラムと共に照明が赤に変わる。親の声より聴いたギターフレーズ。もう沸騰している血がさらに沸き立つ。

 

森下「いっぱい規制があって、退屈な日々を過ごしてるかもしれないけど、THE PINBALLSの音楽に制限はねえからなぁぁぁあ!!!!!!!!」

叫びながらベースをかき鳴らす兄貴。

 

森下「最高の最高に楽しんでいこうぜぇぇ!!!!!!!!carnival,

 

鳴り響くシンバルの4カウント。

 

・・・・come!」

 

これは国民栄誉賞受賞したわ。カッコ良すぎる。提案した人は人間国宝認定。重要無形文化財だわ。carnivalとcomeの間に4カウント入れるだけでなんでこんなにかっこよくなっちゃうんですか??なんかキメてんのか??これまた兄貴のcomeの言い方がかっこよさを5000倍ぐらいにしてる。私が言ったところでこんなにかっこよくならないわ絶対。むしろ場が盛り下がるし流れ切れるわ。良いことねぇな。森下兄貴だからこそできたかっこよさじゃん。しんど。

 

 赤と黄色の照明が会場を照らす。光に当てられたかのように、演奏が走りだす。照明の色が解釈一致すぎて興奮してきた。さっきからずっと照明班と解釈一致してて嬉しい。ライブに行くまで、この曲がライブの定番なのはなぜだろうと思っていた。音源の時から曲のかっこよさは十二分に伝わってきていたが、マストで演奏するほどのものなのだろうかと。蝙蝠と聖レオンハルトや劇場支配人のテーマの方が盛り上がるのではないかと。そんな考えは馬鹿馬鹿しいにも程があった。興奮をあおるようなベースライン、自然と身体が動いてしまうドラムのビート、そしてロック好きなら無条件で好きになってしまうギター!これだけの要素が揃っておいて、ライブで映えない訳がない。毎秒演奏しても良いぐらいだな。凜々しく両手を広げている皇帝を見ながらそう思った。

 

古川「おまたせ!ギター中屋智弘!!!!」

 

 これこれこれこれ!!!!carnival comeと言ったらこのギターソロ振りよ!!!!!!!!この振りを生で聞きたかった!!古川さんの声に応えるかのように、皇帝が暴れ出す。この曲に至るまでたくさんのギターソロを見てきたが、carnival comeのギターソロが1番かっこいい。古川さんが惚れこむのも納得のギターソロ。これに合わせて中屋神輿ができないのが唯一の心残り。

 

 ギターソロからもつれ込むように曲が終わる。本当のラストスパートに入ったなと肌で感じた。メンバー全員が持てる全ての力を出し切ろうとしているのが、ビシビシ伝わってくる。終わりを感じてしまって、数分ぶりに涙が出た。

 

 

古川「イェェェェ!!!!いくぞぉ!!!!!!!!」

 

 満を辞して繰り出されたのは彼らの最大のキラーチューン、劇場支配人のテーマ。まだやっていなかったのか。ここまでの密度と熱量があまりにも高すぎて、てっきりもうやったものだと勘違いしていた。

 

 ギター、ベース、ドラムの音を背負って古川さんが歌い出す。マイクを両手で握り込みながら。命を注ぎ込むように丁寧に歌う。仕草は落ち着いているのに、殺気が滲み出ている。蝙蝠と聖レオンハルトの時から放っていたものが、ここで一段と高まった。この曲で観客全員の息の根を止めてやると言わんばかりの気概を感じる。良いね。最高じゃん。それぐらいの気力でやってこそラストライブってものでしょ。もっと全力でかかってこいよ。

 

 胸を凍らすばかりという歌詞に合わせて、胸に手を当てる。マイクを握ってみたり、髪をかきあげたり、歌詞に合わせたりと古川さんの動きが多い。それだけ感情が昂っているということだろうか。サビに入った瞬間、抑えられていた殺気が襲いかかってきた。熱い。殺気って熱いんだな。その熱さに応えるように、観客席も盛り上がる。声が出せないかわりに歓声を上回るぐらいの気迫を発する。下手な言葉よりも強い。この気迫は彼らにもきっと伝わっているはず。

 

 さぁショウを始めようもう後がないヤツらのため。力を溜めるように歌う。獲物を狙う獅子のように。

 

「アァァァイエェェェェ!!!!」

 

 会場全体を震わす魂の咆哮。抑えていた全てが爆発する。今まで聴いた中で1番の咆哮だった。その熱量は確かに観客に伝わっただろう。

 

 

 俺ら以上にかっこいい存在はないぞと言わんばかりにギターをベースをドラムをかき鳴らしている4人。

 

古川「本当に本当に最高ありがとう!でもライブはもうちょっとだ。バンドが終わって1人家に帰ってもさ!何も終わりじゃないからね!ありがとう!最初っから1人じゃないってことを言いたかったんだよね!ひとりぼっちのジョージ!」

 

 照明が像を結び古川さんの頭上で星を描く。今日絶対やるんだろうなとは思っていたけど、このタイミングでやるとは。確実に泣かせにきてるだろ。なあ。

 

 眩しい光に照らされて演奏する4人を見て、この曲が何を歌った曲なのかを思い出す。歌詞の全てが美しくて、綺麗で、こんな風にファンとの出会いを歌った曲他に無いんじゃないかって。彼らにとってファンは星だったかも知れないけど、ファンにとってもTHE PINBALLSは星だったんだよ。紛れもない光だったんだよ。言葉は交わせないけれど、輝き続けてよ・・・。

 

 どうしてTHE PINBALLSは今日で一度終わってしまうの?こんなにかっこいいのに?こんなに歌い続けているのになんで誰も知らないの?なぜかっこよさが伝わらないの?押し殺した感情が蘇ってくる。今日までに散々考えて無理やり納得したはずなのに。こんなにかっこいい姿見せられたら、諦めきれないじゃないか。我慢できなかった涙をタオルで拭う。

 

 

古川「ほんとに最高!ありがとう!今日のことを忘れねえよ!!!!」

 

私も忘れない。忘れられない。今日のことを一生胸に刻みつけて生きていく。

 

 

 照明が強く光る。ステージが真っ白に輝く。明るくもどこか切ないギターの音が空気を切り裂いた。あまりにも熱い口上から始まったのは、ミリオンダラーベイビー。『millions of oblivion』の中で1番好きな曲。トレイラーを見たときから大好きだった。

 

 ラストライブである今日にこの曲を選らんだのはどういう意図があってなんだろうか。今日は思い出になって、忘れることはないという意思表示なのか。この思い出がある限り、私の心からTHE PINBALLSが消えることはない。だけど、思い出はゆっくりと確実に薄れていってしまう。どれだけ忘れないように頑張っても、記憶は消えていってしまう。たとえ円盤が出ても、それは記録であって記憶ではない。映像を見たからといって、今日感じたこと全てを思い出せる訳ではない。この感動、喜び、悲しさは今しか味わえない。忘れたくはないけれど、忘れてしまう。人間の脳構造が憎い。悔しい。

 

 まずい終わってしまう。本当にあと少しで終わってしまう。終わらないで。頭でぐるぐると回っていた感情が、焦りにかき消される。どれだけ願ったところで、曲が止まるわけはない。ライブを途中で終わらせるような真似、THE PINBALLSがするわけが無い。終わって欲しくないけれど、最後まで走りきって欲しい。矛盾だらけの感情が渦巻く。頭が回らない。もう何も考えられない。大体、ロックバンドのライブをごちゃごちゃ考えながら見るなんて失礼だろ。何を考えたって、時間は進む。それならば、全身でライブに向き合わなければ損だろう。それが彼らに対する礼儀につながるとも信じている。

 

 私が考えている間にも、曲は進んでいる。彼らはとても楽しそうに演奏している。しかし、その表情はいつになく引き締まっていて、ああきっと次で終わるんだなと分かってしまった。

 

 

 蝙蝠と聖レオンハルトから始まったメドレーは嵐のように過ぎ去っていった。舞台が暗転し、拍手が包み込む。きっとこの場にいる全員が次で最後だと気づいている。

 

古川「次で最後の曲です。みんな本当に15年間ありがとうございました。俺はなんか、ロックンロールやれたかな・・・」

 

 震えた声で古川さんがつぶやく。ふざけるなよ。何がロックンロールをやれたかなだよ。THE PINBALLS以上にロックンロールをやってたバンドいないだろ!!

 

古川「ロックンロールに好きでいてくれていたみんなに、最後に、思いっきり、ロックンロールに、こいつらはロックンロールだったって思ってもらえるような、心を込めた歌を、歌いたいと思います。どうもありがとう。」

 

 

 そう言って、古川さんは静かにギターを弾き始めた。照明が背後から彼だけを優しく照らす。最後にやる曲はこれだろうなと思っていたよ。これじゃなかったらステージに殴り込みに行ってたかもしれない。ニューイングランドの王たち。ロックンロールに眠る王たちに捧ぐ一曲。

 

 最初は古川さんの歌とギターだけ、そこに皇帝のギターが花を添え、石ちゃんのドラムが寄り添う。最後に森下さんのベースが入る。4人の音が合わさって一つになる。THE PINBALLSはこの4人じゃなきゃダメだ。この4人じゃないとダメなんだ。それは今日のライブで十分に示された。この4人だからここまでやってこれた。この4人が作った音楽だから、私は引きつけられた。この4人だから、ステージ外でも良い雰囲気だった。この4人だから、THE PINBALLSだった。ステージが見えるギリギリの明るさの照明が涙を誘う。今まで古川さんは何度もありがとうと言ってくれたけど、ありがとうを言うのはこちらの方なんだよ。あなたたちではないんだよ。悲しみ、後悔、感謝が一度に溢れてきて、涙が止まらない。

 

 激しい音が会場に鳴り響く。その音には激しい中にも温かさと柔らかさが混じっていて、全員が魂をぶつけていることがはっきりと伝わってくる。今日、確かにロックンロールに人々は踊った。人々の心の中にTHE PINBALLSは刻まれた。そして、ロックンロールの王たちは眠りにつく。それがどれだけ望まれないことであっても、私にはただ見届けることしかできない。最後のギターの音はどこまでも響いていけるかのように、ずっと鳴っていた。ああTHE PINBALLSが終わってしまう・・・終わらないで・・・。

 

 

古川「ありがとう!」

 

 

 この上なく美しい最後だった。やりきった表情で会場を後にする古川さん、観客席に深くお辞儀をして出て行く森下さん、中屋さん、石原さん。4人がいないステージを見て本当に終わってしまったんだと実感し、喪失感が胸を襲う。でもまだ、まだアンコールがある。彼らなら出てきてくれる。いつからアンコールがあって当たり前みたいな雰囲気になったんだろう。やってくれるかどうかは演者の好意次第なのに。手拍子したら絶対出てきてくれるなんて思わない方がいいよな。でも、まだもう少しだけ夢を見せて欲しい。あと1曲でもいいからまだTHE PINBALLSのライブが見たいんだ。その一心で手を叩いた。普段なら椅子に座るが、今日は座る気なんて一切起きなかった。ずっとこの熱を持ったまま彼らを迎え入れたかった。周りの人も立っていた。

 

 

 それはあまりにも長い時間で、もしかしてもう出てきてくれないんじゃないかと不安になるほどだった。実際には10分もたっていないだろうけど、照明が灯り彼らが出てきた時ほど、安堵した瞬間はなかった。もう少しだけ続きを見せて。

 

古川「すごい重大事件が発覚したんですけど、石ちゃんが泣いてた」

 

 ふふふと笑う古川さん。泣いてないよ!という石原さん。ドラムセットでよく見えなかったけど、石ちゃんは確かに泣いていたように思う。あまりにも普通のライブのアンコールのようで安心感もあり悲しさもあった。

 

古川「なんか2ndのアルバムを取った時に、石ちゃんが泣いてくれたことを思い出した。なんかね、これだけ一生懸命やってるんだなって。まあそれでも思い通りにならないこともありますよね。プレイも。そん時でも俺はそん時、一番、一番っていうかいろんな嬉しいときはいっぱいあったんですけど、なぜかそのことがかなり嬉しい出来事として残ってます。なんか、あ、こいつこんなに一生懸命やってるんだと思うと、まあ俺も泣くじゃんっていうね。」

 

 やっぱり石原さんは見た目と違って熱い人なんだな。誰かの想いにつられて泣いてしまうのも古川さんらしい。

 

古川「良い思い出っていうかね、たくさん美しい思い出を皆さんにいただいて、本当に嬉しいです。さっきも言ったように、なんだろうな、もう投げてさ、もうこんなダメだあと思って言ったことではないんですよね。みんな最後まで本当に練習頑張ってて、かっこいいなと思いました。だから、なんだろ、みんなもね、好きなバンドが終わったりとか、あんまり良くない時もあるじゃないですか人生って。でも、そうじゃないんだって、俺たちはかっこいいんだっていうか、やるんだって気持ちで今いるので、まあ、すごい、活動休止の日に言うのもおかしいんだけどね、全然諦めてないんですよね俺は。今が本当に気持ちいい。みんなにもそうあって欲しいなと思って。まあ良いんだよね!落ち込む時はあって全然良いんだけど、でも明日もやろうぜっていうのを俺はいつも歌いたかったっす。明日こそ良い歌が歌えるんじゃないかっていう歌を歌います。ワンダーソング」

 

 

 そのMCからのワンダーソングは死人が出るだろう。諦めてないなら続けてくれよ。誰もやめたくないならやめないでよ。貴方の口から終わりなんて言葉聞きたくなかったんだよ。なんでなんだよ。穏やかなギターの音が流れ出す。涙が止まらなかった。

 

 初めて聴いた時、すべてをなくしてもすべてをなくすだけだからって何当たり前のこと言ってるんだと思ってた。トートロジーじゃないかと。この部分に意味はあるのかと。そもそも歌詞に意味を求めること自体意味の無いことなんだけど。今ならこの歌詞が言いたかったことが少し分かる気がする。全てを無くしても何かが変わるわけではない。ただ全てを無くしたという事実があるだけ。周りが変わるわけではない。それと同じで、今日でTHE PINBALLSは一旦いなくなるけれど、それはTHE PINBALLSがいなくなるだけなのだ。THE PINBALLSがいなくなったことで何かが変わるわけではない。私の心に消えない喪失感が生まれるだけで、それによって周りが慰めてくれるとか一緒に悲しんでくれるいったことは全くもって起こりはしないのだ。当たり前だけど。当たり前だけど、残酷な事実だよな。いつも通りの表情で演奏する4人を見ながらそう考えていた。

 

 願い事を願うことを忘れないでおくれと歌うなら、私は願い続ける。THE PINBALLSが戻ってくることを。いつになるか分からないけど。願うことをやめない。

 

 

古川「ありがとう!アンコールありがとね!!!!思いっきりぶっ飛ばしていきましょう!!!!」

 

 ワンダーソングの柔らかい雰囲気から一点、ベースが妖しい音を立てる。絞られていた照明が一気につき、光の三原色が彼らを染める。思い出の曲、アンテナ。さっきまでのセンチメンタルな気分をぶっ飛ばすかのように、各パートが暴れ出した。蝙蝠と聖レオンハルト七転八倒のブルースも片目のウィリーも良いけれど、アンテナの全能感には勝てない。なんというか、アンコールで最も輝く曲な気がする。

 

 ギターの歪んだ音、ベースの妖しい音、ドラムのリズム感、何から何まで大好きだ。今日は走り気味の曲が多かったけど、その中でもこのアンテナは疾走感がすごい。あんまり急がないでほしい。ただでさえTHE PINBALLSの曲は短いものが多いのに、走られるともっと短くなる。まだまだステージで演奏しててほしいんだよ。アンコールなんて信じたく無いんだよ。今からもう一回ライブしない???全曲やるまで終わりませんとかやらない?

 

 

 がなるように歌う古川さん。アンコール2曲目だというのに、その歌声に衰えは一切感じない。今からライブ始まりますと言われても信じられるほど、その声には力が満ちている。きっと相当鍛えてきたのだろう。音程も安定しているし、何より声がよく出ている。あんなに歌ってきたのに。それは単純に鍛錬の成果が出ているのか、あと少しだと思って命を削りながら声を出しているのか。前者であってほしい。

 

 

古川「もっともっといけますかぁぁぁぁ!?!?!?!?」

 

4人それぞれの音が洪水のように襲ってくる。

 

古川「いくぞぉぉ!!!!!!!!」

 

 イントロが奏でられた瞬間に体が暴れだす。魂が求めていた。この曲をライブで聴くのが夢だったんだ。十匹の熊。

 

 イントロのギターのカッティングが気持ちいい。ライブ映えしすぎだろ。なんか気持ちよくなる物質が出てるとしか思えないぐらい気持ちいいし。音源よりも音が軽めだからだろうか?よく分からないが耳からキメる魔剤であることは確か。

 

 それまで大人しかった照明が、サビに入った途端赤と緑の明滅を繰り返す。ギラギラしていてとても良い。フォロワーさんが十匹の熊は、ZERO TAKESで子熊からヒグマになったというようなことを言っていたけど本当にその通りだと思う。曲の殺傷能力の高まり方がおかしい。この照明は、曲の殺意の高さをまんま表しているようで好きだ。曲の殺意は高ければ高いほど良い。

 

 念願の1、2、3、4、5もばっちりできたのでとても嬉しい。こういう特定のフリもなかなか良いもんだ。強要されるのは嫌いだが。

 

古川「ギィィィィタァァァァァ!」

 

古川さんの呼び声に応じて、皇帝がギターソロを始める。フロントまでふらふら歩いてきた。あのギターソロ弾きながら散歩みたいな感じで歩けるの本当にどうなってるんだ。器用とかいうレベルじゃない。私もあのレベルに早くなりたい。

 

 ギターソロに見惚れているうちにラスサビ突入。この曲の肝はラスサビにあると思っている。ここに古川さんが伝えたかった全てが詰まっている気がして大好きだ。照明も荒れ狂っているし、古川さんはすごく良い目をしていて、両翼はお立ち台に上がってかき鳴らしていて、石ちゃんのドラマも暴れ回っている。ライブ映えなんてレベルじゃない。この世のかっこいいを全て集めて抽出したかのようなかっこよさ。最後にふさわしい荒々しさ。全てが愛おしくてかっこよくて大好きだ。

 

 

 最後の決めをバッチリ合わせ、終わることを惜しむようにアウトロを伸ばす。石原さんのドラムに合わせ、締め。暗かった会場が明るくなる。拍手が4人を包み込み、全員最高の笑顔でステージから去っていった。皇帝は最敬礼をした後首にタオルを巻きつけていった。かわいい。

 

 

 こんなもんで観客のボルテージが下がるわけがない。まだまだまだまだ見せてくれよ。だって今日は最後のライブなんだろ?アンコール一回で終わるなんて許さないからな。もっと踊ろう。歌おう。歌ってくれ。まだまだやってない曲あるじゃん。プリンキピアも冬のハンターもやってないじゃん。全曲やってよ。会場を拍手の音が埋める。確約されていないダブルアンコールに望みをかけた。

 

 

 

 

 照明が再びともり、観客の必死な願いに応えるように再度メンバーが帰ってきた。これほどまでに嬉しいことはない。今世紀最大の喜びの瞬間。帰ってきたメンバーをこの日1番の拍手で迎える。

 

古川「なんか拍手っていいなあ本当に。ありがとうございます。すごい拍手。ありがとう。拍手がねぇ、欲しくて欲しくて、一つの拍手もなかった時もあったな。すげぇ、見えましたなんか色々叩いてくれてる顔が。うーん、あったねえ。いろんな時が。」

 

 古川さんの言葉に応えて観客が一斉に拍手をする。声が出せないかわりに、この拍手に全てを込めているつもりだ。拍手するだけで貴方達が喜んでくれるなら、いくらでもするけどな。

 

古川「拍手がない時もありましたけど。その時からずっと変わらず一緒に、一緒にいてくれたメンバーに本当にありがとうございます。そしてスタッフのみんな、いっつも支えてくれてね、本当にちっちゃかった最初はちっちゃかったその拍手が、なんか本当に夢じゃなくなった瞬間をくれたと思います。スタッフにもどうもありがとうございます。そして、みんな拍手ありがとう。なんか良い思いで帰れるようにという歌を歌います。あなたが眠る惑星」


 タイトルコールと共に、優しくあたたかい音が奏でられる。ここでその曲はダメだろ・・・。せっかくアンテナと十匹の熊で涙止まったのにまた出てきてしまった。イントロ聴いただけで泣いちゃうんだよ。世界で一番美しく何かを愛することを歌った曲はどれですかと聞かれたら、この曲をあげるだろう。

 

 あなたが眠る惑星を聴くたびに、いつか好きな人ができたらこんな気持ちになれるのかなと思ってたけど、今この場所で聴いてようやく気づいた。THE PINBALLSに対する感情が完全に愛だったってことに。THE PINBALLSの歌は単なる人と人のラブソングに収まらない。そう思いたいだけなのかもしれないけれど。なんというかこの曲は、恋愛感情だけでなく愛そのものを歌っていて、スケールの大きさに涙が出る。どう生きていたらこんな美しい歌詞が思いつくのだろうと、もう何度と抱いたかわからない感情が湧いた。

 

 照明が星空のように会場を彩る。湧き上がる光に照らされているせいか4人が星に見えた。私にとって、THE PINBALLSは紛れもなく希望の星だったんだ。貴方達にどれほど救われたか。ここに来るまでに何度も死にたくなったけど、その度にTHE PINBALLSに救われたんだよ。これからTHE PINBALLSの新曲はないという事実に正直耐えられそうにないよ。これからどうやって生きていったらいいの。

 

 でも、活動休止という選択をして一番辛いのは貴方達だろうに最後まで観客のことを思って送り出すために歌うなんて、そんな優しいことしなくても良いんだよ。もっとわがままに生きてよ。

 

 

 アウトロをすっきりと切り、荒々しい音を奏でる。彼らの真骨頂のロックンロールが暴れ出す。

 

古川「ほんとにほんとに最後だな。声は出せねえけどごめんな。最後に出し切れるかいくぞぉ!?いけるかぁぁぁ!?悔い残すなよ!いくぞぉぉ!!!!」

 

 彼の叫びが、4人の魂を込めた演奏が全身を震わす。涙が出たのは荒々しいながらもどこか切ない音色のせいなのか。それとも終わってしまうのが嫌だからなのか。本当の本当の最後の一曲、真夏のシューメイカー。

 

 真夏のシューメイカーはいつ聴いてもかっこいい。正直、あなたが眠る惑星で終わられるとメンタルバッキバキのまま帰ることになりそうだったからこの選曲は助かる。あなたが眠る惑星や樫の木島の夜の唄のようなTHE PINBALLSのバラードは大好きだけど、しっとり終わるなんてTHE PINBALLSらしくない。私が好きなTHE PINBALLSは悲しみとか辛さとかを、轟音で全部ぶちのめして去っていく人たちだ。最後だと意識しちゃうとどうにかなってしまいそうだから、轟音に身を任せて楽しむことに集中した。

 

 荒れ狂っていた音が少し落ち着きをみせる。嵐の前の静けさ。最後に向けて力をためているようだ。もう本当に、本当に終わってしまう。あと1分もしない間に終わってしまう。

 

古川「いくぞぉぉぉ!!!!」

 

 古川さんの叫びともにギター、ベース、ドラム、歌声が唸りを上げて襲いかかってくる。余まりある興奮を全部突っ込んだような演奏。最後の曲なのに、今までで1番音もでかいし声も出ている。最後とは信じられないぐらいに。こんなにかっこいいバンド見たことない。THE PINBALLS以上にかっこいいバンド見たことがないよ。THE PINBALLSは最高のロックバンドだ。

 

 

 白い光線が彼らを撃ち抜く。皇帝がギターをかき鳴らす。この夜を終わらせたくないかのようにアウトロを伸ばしに伸ばして終わった。終わってしまった。古川さんがありがとうと呟いた。完全に出し切った表情で、足早にステージからいなくなる古川さん。最敬礼をする森下さん、中屋さん。お辞儀をして出て行く石原さん。私の人生の意味が失われていってしまう・・・と眺めてたらみんな戻ってきた。全員笑顔で。

 

古川「最後にさ、みんなで挨拶しようって言ってて忘れてた気持ちよく帰っちゃった」

 

・・・本当に!本当にこの人は!

 

古川「じゃあ前に出て行こうか」

 

 ありがとうございました!とマイクを通さずに叫び、全員手を振って去っていった。みな良い笑顔だった。悲しそうな素振りは一切見せなかった。ありがとうTHE PINBALLS。最高のロックバンド。いつまでも、いつまでも忘れない。

 

 

 

 

 

 その後、バスの出発時刻まであと40分しかないことに沈んだ塔が披露された時ぐらいの衝撃を受けながら、死に物狂いで駅まで走った。

 なんとか出発時刻に間に合い、バスに滑り込んだ。シートに寝転がりながら、さっきのライブを思い出す。昨日まではライブ終わりは抜け殻のようになっているのだろうと思っていた。魂が抜かれたように、悲しみと喪失感しか感じなくなっているのだろうと。でも、今胸に溢れているのは興奮と感動と憧れ。すごく良いライブを見たときにしかならない胸の高鳴りがする。本当に心を動かされた時しか感じられないときめきを今感じている。すごい。やっぱりTHE PINBALLSは宇宙で1番かっこいいバンドだったんだ。

 

 ラストライブの告知から開催まで4ヶ月ほどあった。その間、メンバーはほとんど表舞台に出てこなかった。4ヶ月もあるなら対バンツアーの1本ぐらいできるだろしてくれよとあの頃は思っていたが、それがどれほどふざけた願いだったのか今なら分かる。4人とも今日のためにずっと練習してきたのだ。それが一目でわかる良いライブだった。練習に裏打ちされた最高のライブだったよ。

 

 何より良かったところは、4人が本当にいつも通りだったこと。ラストライブだからって気負ってる様子は全くなくいつも通りかっこよかった。古川さんは伸びやかに歌っていて、中屋さんのギターは獅子が吼えるように唸っていた。森下兄貴はウィンクとかすっごいファンサをしてくれた。石原さんは私の位置からあんまり見えませんでしたすみません。でも、笑顔でドラムを叩いていたことは分かった。今日のライブは、私の人生の中で最も記憶に残るライブになるだろう。遺伝子に感動が刻みつけられた。生まれ変わっても遺伝子から思い出すことができる。

 

 今はまだ、悲しみよりも興奮の方が勝っている。しかし、興奮よりも悲しみが勝る日はいつか来る。その日が来ても、今日とTHE PINBALLSが残した音楽があればやっていける気がする。ありがとうTHE PINBALLS。私が大好きな最高のロックバンドよ、永遠に。

 



 

 

おまけ

 

 

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これは全力疾走しながら撮ったガンダム